お客様の声

NPOたいとう歴史都市研究所 副理事長 椎原晶子様

NPOたいとう歴史都市研究所副理事長 椎原晶子様

「地元に根ざした松下産業だからこそ、できることがある」

 台東区谷中一丁目の巨木ヒマラヤ杉をご存知でしょうか。寺町谷中のY字路のシンボル、三方をお寺に囲まれたエリアのランドマークです。
映画やドラマの撮影場所としても度々登場しています。大正・昭和の住宅も現在まで引き継がれ、歴史ある貴重なまち並みをつくっています。

 平成24年3月、この土地の一画が売却され、ヒマラヤ杉が伐採される可能性がでてきました。
それを聞いた谷中ベビマム安心ネット代表 矢嶋桃子様や、谷中地区町会連合会会長の野池幸三様、NPOたいとう歴史都市研究会 椎原晶子様らが、
翌年4月「ヒマラヤ杉と寺町谷中の暮らしと文化、町並み風情を守る会」(*1)(以下「ヒマラヤ杉の会」)を発足、保存活動を開始しました。

 この保存活動にはNPOたいとう歴史都市研究会(*2)も深く関わっています。
当社も以前からお付き合いがあった同会からお声かけがあり、谷中の暮らしと文化をどう尊重し、保存できるか、いっしょに考えてきました。

 ゼネコンの当社が地域とどのように関わり貢献できるのか、意義とは何か、同会 副理事長 椎原晶子様へお話しを伺いました。

 この巨木の谷中ヒマラヤ杉は、この一画に店を構える「みかどパン」初代店主が戦前に鉢植えで育て始めたものがここまで成長したもの。
寺町のY字路の先端に気持ちいい木陰をつくっています。

 当社は、この地で建設事業に携わる会社として、「ヒマラヤ杉の会」のみなさまと地元の暮らし、文化にどのように貢献できるのか、
プランの組立て、事業収支、返金計画などヒマラヤ杉周辺の保存活動のお手伝いをしてきました。
 このたび、活動がひと段落を迎えましたので、地域貢献の一環としてNPOたいとう歴史都市研究会と「ヒマラヤ杉の会」への寄付を行なうことにしました。

 寄付金は、ヒマラヤ杉保護樹林の剪定、保存などの管理、周辺町並み保全、建物修理支援などに使われる予定の他、
伝統的建物の保全活用推進調査、市田邸(上野桜木の明治築の屋敷)など歴史的建物の保全活用や、
上野桜木あたり(上野桜木の昭和13年築、三軒屋敷とその路地)などでの生活文化の保全・普及活動資金として利用されるとのこと。

 椎原様と当社とのお付き合いは十数年前にさかのぼります。
「谷根千(*3)の代表者からのご紹介を受けたことがきっかけで、松下社長のネットワークをご紹介いただきました。
まちの困りごとがあるとき、松下産業へ直接ご相談させていただいています。」
 以来、根津の茨城会館、島薗邸、丁子屋さん、本郷館と続く中で、谷中ヒマラヤ杉のご相談を受けてきました。

 お話しを伺った場所は台東区谷中の喫茶店「カヤバ珈琲」。大正5年に建てられ、昭和13年に榧場夫妻が始めた喫茶店です。

 この喫茶店、数年前まで存亡の危機にありました。平成19年に店主の方が亡くなり、解体も予想されました。
 そこで動き出したのが、台東区で建物の保存活用と暮らしの提案を行なうNPO「たいとう歴史都市研究会」でした。
 「この建物の管理をオーナー様に代わってNPOが行ない、店舗の事業者を探し、貸し出す。
その賃貸料から地代など支払えるようにするしくみを考えました。」
 所有者が負っている金銭面、修繕維持の苦労を一緒に背負うという保存・活用方法です。

 「建物の保存活用をする、というと文化財的な保存修復の方向か、リノベーションとして古いものをガラッと新しくする方向の二極に寄りがちです。
ここでは建物の記憶、いろいろなストーリーを次世代につなぎ、新しいものを重ねていく「リジェネレーション」を目指しました。
そのためNPOや芸大建造物保存修復の調査チーム、地域の人々と保存したい部位やストーリーを明らかにした上で、
建築家の永山祐子さんに新たな提案を加えてデザインしていただきました。
 常連さんも一見さんも、海外の旅行客も、まちと家の文化を味わい、交流ができる場所を提供できたらと。」

 インタビュー中も海外のお客さんがひっきりなしに訪れ、平日の午後、外にお客さんが並んでいるほどの盛況振りでした。

 台東区を中心に活動されている椎原様から見る文京区のまちづくりはどのように見えるのでしょうか。

 「文京区は『たてもの応援団(*4)』や、『文京建築会ユース(*5)』など団体が活発に活動している地域です。
台東区に比べて文京区の歴史的建物は、旧伊勢屋、瀬川邸、安田邸などのお屋敷や銭湯など敷地が大きいところが多いですね。
台東区は町屋や長屋が多いので、敷地も大きくなく、個人が借りやすい場合が多い。
大きい土地建物では保全事業費や相続税も高くなり、個人レベルの保存が難しい状況です。

 それから、小石川地区は印刷業が多い地域ですが、いま空き工場の問題が出てきています。
文京区は学生が多い地域なので、学生と協同して空き工場を活用するのもおもしろい可能性があります。
あと、文豪が多く住んだ地域として書生をテーマにした町づくり、人と街、シニア世帯と若者をつなぐ『街ing本郷』(*6)の活動もあります。
新旧住民と商店街、町会、企業の連携が各所で求められています。」

 「地元に根ざした松下産業だからこそ、できることがあるはずです。
地域の家主や借り手が安心して住み続けることができるパートナーとしての存在意義があるのではないでしょうか。
新築だけではなく、古い建物を残して使う道があってもいい。
木造の古い家に住み続ける、新たに住む、お店や事務所を開くなど、いろんな選択肢があってもいいはずです。
木造の良さ、暮らしの記憶、関わり方が増えていけばいいですよね。」

 多様な価値観との共存を図り、まちの記憶をつないでいく。これこそがまちのレガシーになるのではないでしょうか。 当社にできることは小さくないはずです。


椎原晶子様 カヤバ珈琲前にて

取材:2015年8月

*1)ヒマラヤ杉と寺町谷中の暮らしと文化、町並み風情を守る会
谷中のヒマラヤ杉一画の保存活動とあわせて、谷中らしい暮らしと町並みを守り活かすために、平成25年4月に結成された地域団体。
平成27年7月には「一般社団法人谷中ヒマラヤ杉基金」を設立。
ヒマラヤ杉と町並み、暮らしの保全活用のために寄付も募り、継続的な支援活動を行なっていく。
http://himarayasugi.yanakatown.org/

*2)NPOたいとう歴史都市研究会
谷中界隈及び台東区とその周辺をはじめ、有形無形の生活文化の保全・活用・支援を通して、歴史と文化を活かした潤いのある都市生活の継続と発展を目指し活動している地域団体。特定非営利活動法人。
http://taireki.com/

*3)谷根千 1984年に創刊された地域雑誌『谷中・根津・千駄木』を略して『やねせん』と呼び、この地域の呼称として定着した。代表の森まゆみ様、仰木ひろみ様と当社の松下とは幼なじみ。
谷根千ねっと http://www.yanesen.net/

*4)たてもの応援団
特定非営利活動法人文京歴史的建物の活用を考える会の通称
旧安田楠雄邸の保存調査をきっかけに発足。
旧安田邸の運営・公開事業をはじめ、建物の活用や調査を通じて失われつつある文化や技術を伝える団体。
http://tatemono-ouendan.org/

*5)文京建築会ユース
文京区の魅力を「発掘」「発信」し、また「新に作り出す」集団。
http://bunkyoyouth.com/